2025年5月25日日曜日

そのTRIPLEX 何年製でしょうか?


Zippoだと、その底部の刻印に含まれる印から「何年製のZippo」か正確に分かりますが。
一方でIMCOには一切そのような仕組みはなく、また恐らく刻印の使いまわしなどもあり、刻印によらず基本的にIMCO界隈では「何年製のIMCO」などと言う話は、する事が出来ません。

しかし、刻印以外の特徴なども含めると、少しだけ年代が絞れる可能性があります。
その可能性を、上の写真のCollection No.88のTRIPLEXを使って検証したいと思います。
はたして上手くNo.88の製造年代を絞ることが出来るでしょうか。

(※少し前に、TwitterのDMで製造年を推定する相談受けて回答したのですが、それがCollection No.88のTRIPLEXと同じ特徴の物でした。なので、せっかくなのでBlogに整理し直して公開したいと思います。)

う~ん。しかし、正直言ってIMCOの製造年は分かりません。分からないのです。「正直言って分かるはずが無い」とまで思っています。
ただ、TRIPLEXの持つ特徴から、何年頃もしくは何年以前・以後などを言えたりします。もしくはもっとアバウトに新しい・古いなどを推測したりもします。
そう言うのを1つずつ確認して行きたいと思います。


【フリントホイールを回す仕組みから分かる事】
まず、フリントホイールを回す仕組みですが。
このNo.88は、フリントホイールの両脇に歯車があるタイプです。これはざっくり1958年以前のものだと推測されます。(正確には1959年8月20日以前か)
何故かと言うと、この歯車を片方だけにする特許(AT217746B)が、1959年8月20日に登録され、1961年3月15日に発行されているからです。
当時のオーストリアの特許事情について詳しくは知りませんが、特許と言う仕組みから考えると、出願前に製品化して公知の状態にしてしまうと特許が成立しません。なので歯車が片方にしかないフリントホイールは、早くても1959年8月20日の登録日以降の出荷です。つまりそれまでは、フリントホイールの両脇に歯車があるタイプとなります。
ちなみにフリントホイールの片側にしか歯車がないTRIPLEXは存在します。つまり1959年以降でもTRIPLEXは製造されているのです。
上の図は特許(AT217746B)に記載の図です。

【タンクの形状】
次に、タンクの形状を確認します。
写真左のNo.88は1つ部品が欠損していますが、写真右のTRIPLEXの様にタンクが3つに分解できるタイプです。アルミを使った2つに分かれる物だと1958年にリリースされたSTREAMLINEがアルミを使った2つに分かれるタンクです。なので3つに分割できるタイプはそれ以前の 1958年以前の物 と考えられます。
ちなみに、アルミを使った2つに分かれるタンクを持つTRIPLEXも存在します。つまり1958年以降でもTRIPLEXは製造されているのです。
ただ、STREAMLINEがリリースされたからと言って、TRIPLEXが急に3つに分割できるタイプからアルミを使った2つに分かれるタイプに1958年でキッカリ切り替わったとは思えません。おおよその切り替えが発生しただろうと思われる年数と言う話になります。1959年時点では、部品の在庫が残っている。TRIPLEX用のアルミタンクが製造できない。などの理由で、まだ3つに分割できるタイプだった可能性はあります。

【タンクの材質】
実は、タンクの材質も確認が必要です。
通常はスチール製ですが、真鍮製や亜鉛製の物が存在しています。
手持ちのコレクションには無い為、言葉での説明になってしまいますが。特に亜鉛性の物は、ドイツ占領下時代の物で底部の刻印にはしっかりと「GERMANY」の文字がある物を写真で見た事があります。そして、真鍮製の物もあり、こちらもドイツ占領下時代の物、もしくは最初期のTRIPLEXの可能性があります。もともとIMCOはIFAなど真鍮製のライターを作ってましたから、真鍮の方が加工し易かった可能性が考えられます。
No.88は亜鉛でも真鍮製でもないスチール製です。タンクの材質から製造年代の推測はできません。

【タンク底部の刻印】
そして、タンク底部の刻印ですが、
「MADE IN GERMANY」や「PATENT GERMANY」ではない。なので、まずドイツ占領下のものとは言い切れません。この刻印には「PATENT FOREIGN」と言うバージョンもあるそうですが、今回は違います。
また、もし 下の写真の様に「PATENTED MADE IN FRENCH ZONE AUSTRIA」と書かれていると 1945年(1946年)~1955年頃?と判別できますが、それでもないです。
(写真はCollection No.126

もし「MADE IN AUSTRIA」であれば、明確にそう刻印できるのは、
1937年のTRIPLEXリリースから 1938年3月にドイツに併合されるまでの間と、分割占領統治後の1956年以降だと思いますので、その年代だと製造年代を推測できます。
しかし、今回のNo.88は「PATENT AUSTRIA」です。

1938年3月、オーストリアはドイツに併合されました。国としてのオーストリアは州(ドイツ語: Land Österreich)になりました。法制上もオーストリア州と定義されていたそうですが、公式には「オストマルク(ドイツ語: Ostmark)」と呼称されていたそうです。参考:Wikipedia「ナチス・ドイツ統治下のオーストリア」

この「PATENT AUSTRIA」いつ刻印されていたのでしょうか?不明なわりによく見かけるパターンの刻印でもあります。恐らく、複数の年代で使いまわしされていた可能性が考えられます。
「PATENT AUSTRIA」が刻印されてた時期は、、、 さっぱりわかりませんが、これについては次の4つの考えが思いつきます。
但し、あくまでも推測です。 4つの内、正しいのはどれか1つかも知れませんし、全部かも知れません。もしはどれも違う可能性もあるかもしれません。


1.「1937年のTRIPLEXリリースから 1938年にドイツに併合された直後 しばらくの期間」
 併合直後から直ぐに切り替わると思えないですし。AUSTRIA時代の特許ではあるので、強引に「PATENT AUSTRIA」と刻印できたかも知れません。

2.「分割占領統治が終わったあと」
 分割占領統治後は、「MADE IN AUSTRIA」と正式に刻印できるようになりますが、その割に「PATENT AUSTRIA」はよく見かける気がします。「MADE IN AUSTRIA」刻印できる状況でも「PATENT AUSTRIA」と刻印していた可能性はないでしょうか。

3.「もしくは、分割占領統治の期間中でも、PATENT AUSTRIAなら刻印できた可能性がある?」
 これは可能性が高い気がします。仮にドイツ占領下でオーストリアが否定されていたとしても、分割占領統治下はオーストリアを否定する事はないと思うからです。
また「PATENTED MADE IN FRENCH ZONE AUSTRIA」と刻印されてた物をオークションで見る事は稀です。つまり「PATENT AUSTRIA」と刻印していた可能性が考えられます。

4.「実は、ドイツ占領下でも「PATENT AUSTRIA」と刻印できていたかも!?」
 次の【フリントホイールのヤスリ面】の話にも絡むのですが、ドイツ占領下でも「PATENT AUSTRIA」と刻印できた可能性が考えられます。オーストリア時代の特許であることは事実ですし、オーストリア(ドイツ)以外の国にTRIPLEXを輸出する際、オーストリアブランドを示す刻印の方が売れたのかも知れません。その為、ドイツ占領下でもお咎めが無かった可能性が考えられます。

このあたりが刻印から読み取れる(考えられる)製造時期の推測あれこれです。


【フリントホイールのヤスリ面】
最後に、フリントホイールのヤスリ面、そのヤスリの目の付け方に注目したいと思います。
下の写真はCollection No.116のフリントホイール周辺を写した写真です。
ヤスリ面が写っていますが、斜めに線が入っているのが分かると思います。
そして、下のCollection No.126のヤスリ面も斜めに線が入っているタイプです。
つまり、1945年~1955年の分割占領時代以降、その頃には、このタイプのヤスリ面が使われていたことになります。

これに対して、下のCollection No.88のヤスリ面では、横一文字の線です。
上の2つと比べると、Collection No.88の方が単純なヤスリで古そうに思われます。

この横一文字のヤスリについては、
手持ちのコレクションには無い為、また言葉での説明になってしまいますが。とあるライターコミュニティへの投稿写真で、「PATENT GERMANY」と刻印されたTRIPLEXに同じ横一文字のヤスリが使われている事を、つい最近知りました。
これは決定的ではないでしょうか!?

つまりCollection No.88は、「PATENT GERMANY」と刻印されたTRIPLEXと同じ頃のものだと思われるのです。
タンク底部の刻印は「PATENT AUSTRIA」ですが、先の推測の通りでドイツ占領下でも刻印できていた可能性も考えられます。
この事から、横一文字のヤスリ面と言う決定打により、Collection No.88は、ナチス・ドイツ併合期間(1938年~1945年)に製造されたものだと考えらえます。


どうでしょうか?
最後の決定打に対して「PATENT GERMANY」と刻印されたTRIPLEXを写真で紹介できないのが残念ですが。(写真の引用の許可を取れば良いのですが、言葉の壁が...(;´Д`))
Collection No.88に対して、その色々な特徴やこれまでの知見から1938年~1945年と具体的に製造年代を絞ることができました。

もちろん、これは一考察であって、必ずしも正解とは言い切れません。
しかし、「何年製のIMCO」などと言う話が出来ないIMCO界隈にしては、だいぶ頑張った方ではないでしょうか? いまは少し、自分を褒めてあげたい気分です。

「○○は、××ではないか?」「△△はどう言う事?」など異論や疑問は湧くかも知れません。もしあれば、コメントを残して頂ければと思います。

それでは、今回はこのぐらいで。
では、また。


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